カトウのブログ

観た映画や読んだ本、その他について

映画『他人の顔』

映画「他人の顔」(1966年 勅使河原宏監督)を観ました。

化学研究所での爆発事故が原因で顔にケロイド状の怪我を負ってしまい顔を喪失した男が、精巧な人口の仮面を作り、誰でもない他人に成りすますという話です。

顔の無い男が仮面によって真新しい別人格になって生きるという事にまずは掴まれてしまいますが(安部公房原作なので間違いないだろうという安心かもあり)、映画自体もうまく作ってあって、なかなか面白かったです。

特に魅かれたのは、仮面を作った医者と顔を無くした男の会話。ユーモアのないウッディ・アレンって感じで会話がテンポ良く進行していくのは、けっこう心地良かったです。と言っても、ストーリーとしては暗いものだし、仮面の男の目的も「怪我後、微妙によそよそしい妻を別人格になって誘惑しよう」ってことなので陰湿。もちろん、顔を無くしたら(普段は包帯ぐるぐる巻き)精神的に行き場をなくしておかしくなるのはしょうがない。それゆえ、遅れてきた人のように、あらゆる人の心を試してみたいくなるというのも当然なので陰湿になるのは当たり前だけど。

 

それにしても、この映画って、「情」とか「イキ」とかはなるべく排除されているように見えますね。(情が見え隠れするのは、同時進行で話が進む顔の右側にケロイド状の傷のある少女と兄のくだりだけど、はっきりとは語られていない)なので古い映画のわりに未来的な感じがするのかもしれません。「情」の濃い話も大好物なんだけど、「情」を中途半端に織り交ぜないものイサギよくて悪くない。でも、よく考えたら、顔を無くした男の内面はかなりの情念が燃えたぎっていたような気もするので、「情」の無い話というより、恐ろしい程の情を隠した話と言えるのかもしれないですね。

 

本棚に「他人の顔」の文庫本があったので、あらためて読んでみようか。本棚にあるということは、たぶん、以前読んだ事あるんだろうと思うけど、まったく覚えていないので。